
これまでに介入した理学療法事例を掲載します
事例1:高年齢労働者の転倒災害防止のキャンペーン活動
対象:滋賀県内O社
閉眼片足立ちを通じて、
身体への気づきと社員同士のエンパワーメントが育まれ、
一年を通した転倒災害防止につながった事例です。
取り組みの背景
この会社では、
高年齢労働者の増加に伴い、
「いつ転倒事故が起きてもおかしくない」という不安を感じていました。
ただし、
- これまで大きな転倒災害は発生していない
- 危険箇所の対策は一通り実施している
という状況で、
「次に何をすればよいのか分からない」という段階にありました。
そこで導入されたのが、
転倒災害防止キャンペーン(閉眼片足立ち)です。
なぜ「閉眼片足立ち」だったのか
閉眼片足立ちは、
特別な道具や場所を必要とせず、
転倒リスクを“体感的に”理解できる指標です。
- 見た目は簡単
- しかし、年齢や疲労の影響がはっきり出る
- 「できているつもり」と「実際」の差が分かる
この会社では、
「評価」ではなく
“気づきのきっかけ”として活用することを目的にしました。
実施内容(1年間の取り組み)
- 閉眼片足立ちを年に複数回実施
- 記録は個人比較のみ(他人との順位づけなし)
- 結果は
- 「できた/できなかった」ではなく
- 「前回よりどうか」を確認
- 測定後には
- 転倒とバランスの関係
- 日常動作・仕事とのつながり
を分かりやすく共有
この取り組みを、
一年を通じて継続しました。
起きた変化①閉眼片足立ちの時間が伸びた
継続的に取り組む中で、
多くの社員に以下の変化が見られました。
- 初回は数秒しか保てなかった
- 半年後には10秒以上安定
- 一年後には
「自分でも驚くほど伸びた」という声が増加
社員自身が
「身体は変えられる」という実感を持つようになりました。
起きた変化②転倒予防が“自分ごと”になった
閉眼片足立ちは、
数値がシンプルな分、
自分の状態を直感的に理解できます。
その結果、
- 「最近ちょっと不安定かも」
- 「今日は疲れているな」
- 「前より良くなってる」
といった自己観察の言葉が、
現場で自然に聞かれるようになりました。
起きた変化③社員同士のエンパワーメントが育まれた
このキャンペーンで特徴的だったのは、
社員同士の関わり方の変化です。
- 「最近どう?」
- 「前より伸びてるやん」
- 「一緒にちょっとやってみよう」
といった声かけが自然に生まれ、
互いの変化を応援する雰囲気が育っていきました。
競争ではなく、
支え合い・気づき合いが生まれたことが、
この取り組みの大きな成果でした。
会社としての変化
この会社では、
一年を通して転倒予防に取り組んだ結果、
- 転倒に対する意識が「一時的な注意」から
「日常的な関心」へ変化 - 「年だから仕方ない」という言葉が減少
- 安全衛生の話題が
指示ではなく会話として交わされるように
なりました。
この事例が示していること
転倒予防は、
マットや手すりだけで完結するものではありません。
- 身体の変化に気づくこと
- それを日常の行動につなげること
- 周囲と共有できる文化をつくること
これらが揃ったとき、
転倒災害は「起きにくい状態」になります。
まとめ
閉眼片足立ちは、
単なる体力測定ではありません。
この会社では、
- 身体への気づき
- 行動の変化
- 人と人とのつながり
を生み出すきっかけとなり、
一年を通した転倒災害防止につながりました。
事例2:腰痛のリスクアセスメントから始め、
腰痛リスクアセスメントを起点に、
作業の構造を見直し、
現場改善につなげた事例です。
対象:T社
取り組みの背景
この会社では、
長年にわたり腰痛を抱えながら働く社員が多い状況が続いていました。
- 労災としての腰痛は少ない
- しかし「腰が痛いのは仕方ない」という雰囲気がある
- 作業は昔から変わっていない
大きな事故は起きていないものの、
「このままで良いのか」という違和感を経営側は感じていました。
そこで導入されたのが、
腰痛のリスクアセスメントを起点とした現場改善です。
なぜ「腰痛のリスクアセスメント」から始めたのか
腰痛対策というと、
- ストレッチ
- 体操
- 注意喚起
から始められることが多くあります。
しかしこの会社では、
「まず何が腰に負担をかけているのかを整理しないと、対策が場当たり的になる」と考えました。
そこで、
作業・姿勢・環境を客観的に整理する人間工学的リスクアセスメントを行いました。
実施内容① 腰痛リスクアセスメントの実施
理学療法士・人間工学家の視点から、
以下の点を中心に評価を行いました。
- 持ち上げ動作の頻度と姿勢
- 中腰・前屈姿勢の継続時間
- ねじり動作の有無
- 作業台や台車の高さ
- 動線と作業の流れ
ポイントは、
「個人の体力」ではなく、「なぜこの作業は腰痛を発生させるのか?」に注目したことです。
実施内容② 現場と一緒に“なぜ負担がかかるか”を共有
評価結果は、専門用語を使わずに現場へ共有しました。
- なぜこの姿勢が続いてしまうのか
- なぜ腰を曲げてしか作業ができないのか
- どこを変えれば楽になるのか
「指摘」ではなく「納得」を重視し、現場と一緒に原因を整理しました。
実施内容③ 小さな現場改善の実行
アセスメントをもとに、
大掛かりな設備投資ではなく、
すぐにできる改善から着手しました。
- 作業台の高さを数センチ調整
- 物の置き位置を変更
- 持ち方・立ち位置の見直し
- 作業手順の一部変更
改善内容は、
現場の意見を取り入れながら決定しました。
起きた変化① 「腰が楽になった」という声が増えた
改善後、
現場から最初に出てきたのは、
数値ではなく感覚の変化でした。
- 「前より腰が張らない」
- 「一日終わっても楽」
- 「無意識に前より良い姿勢になっている」
腰痛を
我慢するものから、改善できるものとして
捉える意識が芽生えました。
起きた変化② 腰痛の話題が“注意”から“工夫”へ
それまで腰痛の話は、
「気をつけよう」という注意で終わりがちでした。
しかしアセスメント後は、
- 「この作業、もう少しこうできないかな」
- 「この高さ、合ってる?」
- 「昨日より楽やな」
といった改善に向けた会話が増えていきました。
プレゼンティーイズムの変化
同じ設問による再アンケート結果:
- 「腰の不調で仕事効率が落ちている」と回答
- 約48% → 約22%(▲26ポイント)
- 「午後の集中力低下を感じる」と回答
- 約42% → 約18%(▲24ポイント)
- 「腰をかばって作業している」と回答
- 約55% → 約25%(▲30ポイント)
- ▶ “不調を抱えながら働く人の割合が、ほぼ半減”しました。
※ 本数値は、従業員アンケート(自己評価)をもとにしたものです
※ 医療的診断・厳密な生産性測定ではありません
※ 効果には職場環境・作業内容により差があります
会社としての変化
この会社では、
腰痛リスクアセスメントをきっかけに、
- 腰痛を個人の問題にしなくなった
- 作業を見直すことが当たり前になった
- 現場改善が「指示」ではなく「共同作業」になった
という変化が生まれました。
この事例が示していること
腰痛対策は、
ストレッチや注意喚起だけでは続きません。
- なぜ負担がかかっているのかを見える化すること
- 現場が納得した上で改善すること
- 小さな成功体験を積み重ねること
これらが揃ったとき、
腰痛は減らせるリスクになります。
まとめ
腰痛のリスクアセスメントは、
評価のためのものではありません。
この会社では、
- 現場を見直す視点が生まれ
- 働きやすさが向上し
- 腰痛を予防する流れが定着しました。